新規就農者研修施設の冬(12月)

 新年あけましておめでとうございます。

 今年は巳年。巳(蛇)は、脱皮を繰り返して成長することから、強い生命力や不老長寿の象徴として崇められてきた、とのいわれがあります。

 地球温暖化による気候変動、農業資材や肥料等の高騰など課題が多い農業ですが、巳年にあやかり強い生命力を持って課題を一つひとつ乗り越えて行きたいものです。

 先月、この連載をホームページに掲載したところ、間もなく市民の方から「ホームページ、毎回楽しみに見ているよ。研修って野菜や花の栽培技術の習得だけだと思っていたけど違うんだね。座学や農業簿記の勉強、場外研修やインターン、視察研修等々、いろんなことをやっているんだね。今まで知らなかった。どうか立派な農業後継者に育ててね」という電話をいただきました。

 ご覧いただき、ありがとうございます。これからも新規就農者研修にご注目願います。

12月3日

 2年目研修生は県農業研修センターでコミュニケーション能力向上の研修会、1年目研修生は東部研修施設で「私の営農計画」を策定するための座学を開催。

 就農するにあたり、必要な農機具やハウス、資材、種苗等を購入するために国または県の補助制度を活用する場合は、遅くとも就農前年の8月ごろまでに取り組む作物を決め、営農計画を立てて、必要な農機具や資材等の見積書を業者からもらい、市を通して国または県へ補助金申請を行います。国や県の補助事業を活用するには「認定新規就農者」として市(町)から承認される必要があり、そのためには5年後の所得目標(大仙市225万円、美郷町180万円)、年間150日以上、1200時間以上の従事が最低条件の営農計画の策定が必須です。

 したがって1年目研修の段階から、どれぐらいの面積でどんな作物に取り組むか等を県の指標をもとに営農計画に落とし込み、経営を数値化することで、経営が成り立つか、必要なものは何か、補助金制度が活用できるか等を認識し、就農準備を進めさせます。

 1年目研修生は「思っていたよりも所得が上がらない」「1品目だけでは作業日数、作業時間とも足りない」等が今回の座学で判明し、自分が就農するためには何が必要か、何が足りないか、具体的に理解できたようです。

営農計画の座学の様子

営農計画の作成方法を学んでいる様子01営農計画の作成方法を学んでいる様子02営農計画の作成方法を学んでいる様子03営農計画の作成方法を学んでいる様子04

12月4日

 11月24日に行われた農業簿記検定3級試験は、研修生10名が挑戦し、見事全員合格の快挙となりました(全国877人受験、合格率63.5%)。試験日の数日後に示された回答を確認して自己採点の結果、全員合格かも、とは思っていましたが、正式に通知が届くまでは不安でした。

 「合格、合格、合格…」と合格の文字が並んだ通知を見て、研修生の努力をたたえ、全員合格を祝福しました。

 農業簿記を指導した当施設の農業専門員の先生から「全員合格おめでとう。実際の農業簿記は、パソコンソフトに数字を入れれば計算してくれるが、肝心なことは、出てきた数字をどう経営に生かすか。数字の見方、数字から読み解くことが大事だ」と講評がありました。

合格証書を手に記念写真を撮っている様子合格通知書一覧

12月11日

 県農業研修センターで農業経営者研修。今回は、「商品開発・販売」について。

 講師の「研修生のみなさん、まずは自分の農業を極めてください。安定的に作物の生産ができるようになったら、自分が思い描いた加工品をプロに作って(委託製造して)もらってください」の言葉から始まりました。そして

  • 加工品を自分で作るには、(1)加工施設等の設備に多額な投資が必要、(2)加工技術の習得にはかなりの時間と知識を要する、(3)レシピが出来てから賞味期限設定テストや食品表示、栄養成分分析等にも経費がかかる、(4)商品名を決める際にはすでに商標登録されていないかの確認等々を行い、(5)加工品が出来て販売するに至った際には、商品(加工品)の原価計算、商談価格(卸値と売値)、生産管理(商品の安全管理)、過不足なく、また欠品しないように在庫管理、さらには(6)クレーム対応 と非常に大変で、それらを一つひとつクリアしていく覚悟が必要
  • どんなにおいしいもの、品質の良いものを作ったとしても、必ずしも売れるとは限らない
  • こうした覚悟を持って商品(加工品)開発をする場合は、誰かのために役立つ、誰かを幸せにする、お客さんが喜ぶもの、何よりも自分が買いたいものはどんなものかを考えることが大切
  • 原材料となる作物の安定的な調達のためには、自分一人では難しい。自分の農業にこだわりながら、地域を巻き込み、お客様とも地域の方々とも連携しながら、おいしい加工品を作り出してください  

という説明がありました。

研修の様子

研修の様子研修資料

12月16日

 大曲農業高校の「地域を支える人材育成事業」の一環として、研修生と「愛農会」(大曲農業高校の生徒で、将来、農業関係の仕事や農業分野への進学を希望する生徒の組織)の交流会を大曲農業高校で開催。

 大農生6~7名と研修生3名ずつが4班に分かれ、初めにアイスブレイク(雰囲気づくり)として自己紹介と農業用語しりとり。農業用語に限ってのしりとりは、なかなか大変。

 次にグループの代表者が、将来、農業にどのようにかかわるか、20才、30才、40才、50才そして60才にはこうなっている(マイプラン)という自分の理想像を発表。「20代後半には野菜、花を生産する合同会社を設立して飲食店などにも作物を販売し、地元の人たちとの交流を深めながら、次の若者に農業の楽しさを伝えたい」「まずは農業系の会社に就職し、農業をやる前に嫁さんをもらい、就農して生活が安定したら加工工場を建てたい」などといったマイプランに対し、研修生から「学生(時間がある)のうちにできるだけ多くの資格を取る」「同じ目標を持つ一生の友達をつくった方がいい」「農業はいつでもできるので、一度一般企業で働き、パソコン操作スキルなどを高めてから農業を始めるのも選択の一つ」等のアドバイス。

 交流会後、研修生から「未来の農業を支える若い考えを知ることが出来た」「高校生の発想がユーモアで、頼れる大人になりそうだと感じた」「目標を明確に持つことの大切さを感じた」「あらためて自分の農業を考えようと思った」「違う世代の人と接する機会は、高校生にとっても社会人(研修生)にとっても良い経験になると感じた」といった感想があり、高校生にも研修生にも互いに良い刺激となったようです。

交流会の様子

交流会の様子01交流会の様子02交流会の様子03交流会の様子04交流会の様子05交流会の様子06

12月17日

 11月下旬から東部研修施設のほ場の暗渠工事が行われています。

 東部研修施設は平成9年度に整備し、開設から26年経過。ほ場に暗渠は入っていますが、経年劣化が著しく、雨が降ると排水機能がほとんど働いていませんでした。また雨の後は土壌が完全に乾くまで数日かかり、ぬかるんでほ場に入ることが出来ないため畝が立てられず、作物の播種や苗の定植が遅れ、排水不良で作物の生育にバラつきが出るなど研修に支障を来たしていました。

 4月に株式会社秋田クボタのご協力により、農業用機械の操作研修会の際にパラソイラを入れていただいたおかげで、排水機能がかなり改善しましたが根本的な解決に至らず、作物の収穫が全て終わり、工事車両が入ることでほ場を痛めないために降雪を待って暗渠工事が始まりました。

 来年度は条件の整ったほ場で研修が始まり、より充実した研修となります。

暗渠工事の様子

工事の様子01工事の様子02工事の様子03工事の様子04

12月19日

 新規就農研修後は、独立営農(親元就農含む)または法人就農のどちらかを選び就農することになります。独立営農後、将来的には法人化して経営者になる可能性も。

 こうしたことを考慮し、研修施設での農作業時間が少なくなる冬期間は、研修生の農業法人でのインターンを行っています。

 西部研修施設の1年目研修生3人が、12月から2月中旬まで毎週火曜日、木曜日、2人ずつローテーションで研修施設近くの農業法人へインターン。大仙市内には約130の農業法人が設立されており、ほとんどの法人が若い担い手を求めています。

 インターンでは、菌床シイタケの菌床並べ替えや調整出荷作業を行い、1月下旬から2月にかけて菌床の入れ替えを行う予定とのこと。

インターンの様子

シイタケの入ったカゴを運んでいる様子しいたけの選別をしている様子菌床を入れ替えている様子01菌床を入れ替えている様子02

12月26日

 西部研修施設で市教育委員会主催の子どもたちの農業体験の受け入れ。

 これまで東部研修施設での受け入れてきましたが、今回初めて西部研修施設で行ったところ、参加者全員が初めて西部研修施設に来所したとのこと。そこで体験の前に、西部研修施設の農業専門員の先生から施設の紹介。

 西部研修施設には、48坪のハウスが4棟あり、冬期間も4棟フルに作物が植えられています。夏場にボックス(箱)でトマトを栽培しているハウスでは、トマトの収穫が終わってからボックスのままアスパラ菜を栽培。このボックスには、イスラエル製の「ネタフィム」という点滴かん水システムが導入されています。イスラエルは砂漠地帯にある国ながら農業先進国で、「ネタフィム」は水が無いという過酷な環境下で開発された最先端のシステム。

 このシステムは、液体肥料が入った大きなタンクから、時間と量を設定して水と一緒にボックスまでチューブで流します。さらにチューブから細い管で水と液体肥料を点滴のように効率良く作物に与える点滴かん水もスマート農業の一つだと説明があり、保護者が興味を持ちながら聞いていました。

 その後、2班に分かれてアスパラ菜、シュンギク、カブ、ストック(花)の収穫。研修生から収穫の仕方の説明を受け、子どもたちは収穫用のはさみを持ち、「いっぱい採って、いっぱい食べるぞ~」と言いながら収穫していました。

 保護者は「普段、うちの子は野菜を食べないが、なぜか自分で収穫した野菜は食べるんです」「シュンギクをいただいたので、今夜さっそく鍋物にして食べます」などと話していました。

農業体験の様子

施設の説明を聞いている様子収穫体験の様子01収穫体験の様子02収穫の体験03収穫の様子05収穫の様子06

11月の研修活動報告はこちらをご覧ください。

  • 新規就農者研修施設の秋(11月)- 大仙市農業振興情報センター

https://www.city.daisen.lg.jp/archive/p20241203164937