太田町国見新山地内。
ここに、静かに佇む一本の枝垂桜があります。この枝垂桜は「作エンの桜」と呼ばれ、長きにわたって地域の人々に親しまれてきました。
その推定樹齢は300年以上、平成元年には旧町の、平成17年には市の有形文化財の指定を受けています。
「作エン」という名称は、生息地の屋号が藤沢作右衛門(さくえもん)であることに由来し、ここに住む藤沢氏が角館の佐竹氏に勉学の進講(講義)をした際に、佐竹氏から褒美としてこの枝垂桜が下賜されたと伝えられています。
仙北市角館の桜と並ぶ長寿の枝垂桜とされ、大きく下がった枝の奥には、幹周り約3.3メートルの太い幹がずっしりと構えており、名のある武家の桜にふさわしい外観が印象的です。
近くに住む60代の男性は「私が子どものころはすごく良い枝ぶりで、よく木登りをして遊んだ。満開の桜の木の下で遊んだり花見をしたりするのは楽しかったが、今では枝振りも落ちてだいぶ老木になってしまった」と枝垂桜との思い出を語っていました。
かつては藤沢家の庭木として管理されていましたが、今は人の手を離れ、ひっそりと静かに生息しています。
「作エンの桜」は今年も、周辺の桜の木々と共に美しい花を咲かせていました。
主なき後も、この地の春を守らんとするかのように。